患者さんを増やす歯科マーケティングのすすめ
クインテッセンス出版 春江泓 (著)
この本には「魅力的な歯医者さん」を作るために必要な考え方や行動が書かれています。テーマとして「外部環境の変化に負けない歯科医院(歯医者さん)の経営」を挙げられています。この本の顧客層は、歯医者さんの院長・マネジメントに携わる管理職ですので、対象の方はぜひ参考にしてください。
全5章に分かれていますが、今回の要約では第3章〜第5章の内容を重点的に紹介いたします。
第1章の要約:歯医者さんを取り巻く環境が大きく変わった
一昔前、地方には歯医者さんがなく、そこに住む人たちは月に数回出張でやってくる歯科医師の診療に頼るしかありませんでした。しかし日本が豊かになるにつれ、全国的に歯医者さんが増えていきます。
1982年から2004年の22年間の間に歯医者さんは1.6倍に増えました。しかし日本は少子高齢化に突入し、患者数は先ほどの期間の間に3割も減っています。需要と供給のバランスが逆転してしまいました。
さらに情報化社会となり、患者さんの意識が上がり、「せっかく通うなら、より良い歯医者さんへ」という選択がシビアになったのです。そしてそのような“意識が高い患者さん”に求められるスタッフのレベルも年々高くなり、優秀な人材を確保することも難しくなりました。
「需要と供給が逆転した」「患者さんの意識が高くなった」「質の高いスタッフを確保することが難しくなった」という具合に、歯医者さんを取り巻く環境は大きく変わっています。
そこで必要なのが「歯科医院の経営ビジョン」です。「なんとなくのマネジメント」「どんぶり勘定の数値目標」ではなく、歯医者さんとしての“あるべき姿”を明確にし、それを達成するための数値目標を具体的に設定することが重要であるそうです。
第2章の要約:環境の変化に対応するためにどうやって経営を変えていくか
結論からお伝えすると、経営を変えるということは、「課題の根本に目を向け、その根本を解決するために必要な対策に取り組むこと」です。一言でいうと「戦略を立てる」ということです。
本書の中では「対処療法」と「根治療法」という2つのキーワードが紹介されています。「お客さんが少なくなった」という問題が出てきたときに、「お客さんが離れていかないように愛想をよくしよう」というのは、その場しのぎの対処療法に過ぎないと言っています。
お客さんが少なくなった根本には、“近くにオープンした新しい歯医者さんのサービスに負けている”という課題が潜んでいるかもしれません。その根本の課題を明確にして、それを解決するための対策が必要なのです。
その際、「ヒト・モノ・カネ」という3つの側面から対策を考えると具体的な道筋が見えてきます。
「ヒト」:スタッフの能力を向上させる。
「モノ」:新しい診療科目や最新の設備を取り入れてみる。
「カネ」:経費のコストダウンを図る。
第2章では、外部環境の変化に合わせるためには戦略を立てる必要があり、その戦略には「ヒト・モノ・カネ」という3つの側面から考えてみることが大切であるということです。
第3章の要約:患者さんを増やすためのマーケティング
この章では、患者さんを増やすための具体的なマーケティング、つまり「どうやってお客さんを増やすか」ということです。
大きく分けて3つの方法が紹介されています。それが「①SWOT分析・②マーケティングリサーチ・③コンセプトづくり」です。
① SWOT分析
外部要因を“機会”と“脅威”に分け、内部要因を“強み”と“弱み”に分けてマトリックス化する。機会と脅威はそれぞれ“チャンス”と“リスク”に言い換えることもできる。『チャンス×強み』『チャンス×弱み』『リスク×強み』『リスク×弱み』で自らの医院を分析する手法がSWOT分析である。
② マーケティングリサーチ:4つのステップ
- 診療圏を調べる。自院を中心に、どの地域まで患者さんが分布しているのかを調べる。
- 人口統計を調べる。期待される患者の数を割り出す。
- 患者の特性を割り出す。性別・年齢層・困りごと(虫歯なホワイトニングなどの美容に関する問題なのか、加齢による歯茎の悩みなのか)
- その患者の特性(ターゲット)に沿ったサービスを考える。そのターゲットの困りごとを解決できるような診療方法を考える。
③ コンセプトづくり
「わたしたちは、こういう患者さん(ターゲット)のお困りごとに対して、このようなサービスを提供する歯医者さんです。」と明確に打ち出すこと。自院の特徴をハッキリと打ち出したのが“コンセプト”になる。
ターゲットの困りごとを明確にすることが重要です。ビジネスマンであれば、多忙なため早く治療してほしいと望むだろうし、子どもであればとにかく痛みの少ない治療を望むだろうし、主婦であれば待ち時間が少なく予約の通りに診療が受けられることを望むでしょう。
自分たちだけで考えるのではなく、実際に患者さんにアンケートを取るなど、相手の望みをリサーチする具体的な行動を起こすことが大切です。
また患者さんを増やすためには“信頼関係を築くこと”が何よりも大切であると書かれています。歯医者さんで応対するときはニコニコしているのに、別の場所(ゴルフ場やスーパーなど)でたまたま会ったときに無愛想であれば、患者は「医院での顔は建前なのだ」と思ってしまうでしょう。
お客の“口コミ”も重要なマーケティングの一つです。1人の客を失うことは30名の潜在客を失うことに等しいと肝に銘じましょう。
第4章の要約:マーケティング戦略を日々の活動に組み込む
マーケティングの戦略を日々の活動に落とし込む具体的な方法です。SWOT分析やマーケティングリサーチをしても毎日それを実践しなければ意味がありません。まさに“絵に描いた餅”になってしまいます。この章では“家づくり”を例にして説明しています。
- どのような家を建てたいか考える(目指すべき歯医者さんの“理想像”を描く)
- その家を建てるための具体的なステップを考える(顧客の想定・その顧客に満足してもらえるサービスの構築・販売促進)
- ステップの一つ一つをしっかりと行うための計画づくり(サービスを実際に行うための習慣化)
家を建てる(理想を実現する)ためには、上記の①〜③を確実に実行することが必要不可欠です。しかしながらそれは簡単なことではありません。日々の業務で手一杯であり、またこれまでの習慣が邪魔をしてなかなか新しい習慣が根づかないのです。
そこで著者は「管理すること」が大切だと述べています。
管理という言葉を聞くとネガティブな印象を持たれる人も多いと思うのですが、著者は、管理とは“前向きな取り組みであり、目標を実現するための効果的・効率的な取り組み方法”であると言っています。院長・スタッフがそれぞれバラバラな動きをしていては高い効果を出すことはできません。
理想に向かって考え出された具体的なステップを確実に行っていく。そのために必要な3つの考え方が紹介されています。それが「プラン(P)・ドゥ(D)・シー(C)」です。
プラン:目標設定と計画づくり
ドゥ:計画の実施
シー:評価・見直し
この3つのステップを繰り返し何度も行うことが重要です。
P・D・Cで決められた行動を一覧表にすることによって管理するのです。これはあくまでもチェックされる・監視される・コントロールされるというネガテイブなものではなく、目標達成(理想の実現)に向けての“目に見える取り組み”なのです。
見える化を行えば、なかなか改善されないステップ、うまくいかないことが分かってきます。評価・見直しをすることで、さらにブラッシュアップされ、どんどん良くなっていくのです。
第5章の要約:日々の診療活動でマーケティングを実践するための具体的な行動
最後は、マーケティングを推進するための日々の具体的な行動を書いています。あらためて「掲げた理想に向かって、日々着実に行動を積み重ねる」ことの重要性が説明されています。臆病なぐらいに準備を徹底して、実践するときは明るく楽しく行うこと。
まずは院長としての具体的な行動を紹介します。
《実践1》心を整える(朝)
毎朝、診療をスタートさせる前にスタッフと一緒に「想い」「考え方」「働き方」を再確認する。
《実践2》午前中の反省と午後への準備(昼)
午前中の診療の中でしっかりと目標が達成できているかを確認する。反省点があれば午後の診療に活かすように徹底する。
《実践3》1日の振り返りと翌日の準備(夜)
その日1日を振り返って、あらためて目標の達成度合いと反省点を洗い出す。第4章でも紹介したプラン・ドゥ・シーを徹底的に毎日積み重ねることが大切なのです。
次に紹介する具体的な行動は、“院外”での活動です。マーケティングは医院の中だけで完了するものではありません。患者さん(顧客)と接する機会のある場所はマーケティングを行うための有効なチャネルになります。
院外での活動
《実践1》日常生活で顧客と触れ合う
飲食店やスーパー、学校やゴルフ場などさまざまな場所で顧客と会う機会があります。その際に重要なのが“歯医者さんで接するときと同じ態度”で接することです。医院では丁寧なのに、外で会った時に無愛想だったら、顧客からの信頼は消えてしまうでしょう。
《実践2》地域の団体と積極的に関わる
PTAやスポーツクラブ、老人会など地域の団体や集まりに積極的に顔を出すことが重要です。歯医者さんとして協力できることがないか提案してみましょう。顧客からの信頼を得るためにはこのような姿勢が大切です。
《実践3》医院の外で情報を集める
院外での活動で手に入る情報はとても有益です。患者さんが自院をどのように評価しているのか、患者さんは何を求めているのか、ほかの歯医者さんはどのような活動を行なっているのか。外で手に入れた情報を自院の活動の中に反映させていくことが大切です。
日々の診療活動で大切にすべき点も次のように列挙しています。
- 患者さんが抱えている症状を、相手にわかりやすく説明すること
- 治療方法についてのメリット・デメリットを明確に説明すること
- 治療方法の決定については、患者さんの意思を尊重すること
- 治療はスムーズかつ丁寧に行うこと
どれも“患者さんファースト”という視点が組み込まれています。患者さんを見下したり、不快感を与えたりしてしまっては信頼を失ってしまいます。院長・スタッフの立ち居振る舞いがマーケティングを実践していく上で何よりも大切なのです。
これら日々の業務で着実にステップをふみながら、収益もチェックすることが大切です。日々の実践がしっかりと数字に反映されているか確認しましょう。目標とする医業収入を達成するために以下3つのポイントを大切にしましょう。
医業収入を達成するために
《実践1》新規の患者さんがどれだけ増えているか
ターゲットとする患者さん(顧客)の増加数を確認します。増えていないようであれば「マーケティング活動に間違いがあるのか」「そもそも想定したターゲットがズレているのか」「日々の活動で足りないものはないか」など振り返りが必要です。
《実践2》リピーターを管理する
一度来院された患者さんが自院を再利用しているかチェックします。離れていってしまっている場合は「治療のプロセスのどこで中断したのか」「担当者別で偏りがあるのか」「スタッフの対応に問題はなかったか」を振り返ります。
《実践3》治療を休んでいる患者さん(休眠客)の再来院を管理する
歯医者さんも立地産業であり、遠い場所から新しい患者さんを連れてくることは簡単なことではありません。患者さんの満足度を高めるための改善を続けていく必要があります。
このように毎日の診療の中で行動を一つずつ積み重ねることが理想を実現するための方法です。院長・スタッフで想いを共有し、具体的な数値目標を掲げ、それを達成するための行動を日々確実に行なっていく。それこそが患者さんを増やすためのマーケティングと言えるのです。
この本の特徴は「理想・想い・患者さんの満足度」といった抽象的な概念から、「数値目標の作り方・管理の方法・計画の実践」という具体的な行動までを取り扱っている点です。抽象的な概念⇄具体的な行動の往復運動こそ、魅力的な歯医者さんを作り上げるためのマーケティング方法なのです。
まとめ
患者さんは本来減った方がいいにきまっていますが、患者さんが来院されないと医院はなくなってしまいます。必要な患者に気持ちよく来院していただける環境をマーケティングからの観点で書かれてあります。当たり前のことを当たり前にやる仕組みを作るのは歯科医院だけではなくどの業界も必要ですね。